vol.01

CROSS TALK President × Professor 信頼性の高い分析が、
未来の安心を支える

日本海環境サービス
代表取締役社長
竹内 正美
TAKEUCHI MASAMI
富山大学 学術研究部
工学系 教授
加賀谷 重浩
KAGAYA SHIGEHIRO
01

微量元素の数値化で、安全・安心に貢献

竹内

加賀谷教授は、微量元素の分離・定量をテーマに研究をなさっておられます。研究の目的や理由を教えてください。微量のものを数値化させることの意義はどこにあるとお考えでしょうか。

加賀谷

環境中にはさまざまな元素がいろいろな濃度、化学形態で存在しているのですが、私は微量元素に着目し、正確かつ精度よく定量する研究を進めております。一般的に微量元素を定量するときは分析機器を使い、特に微量なものを測るときには高価な装置や複雑化した装置を使うことになります。ただ、このような装置でも、感度が足りずにノイズの中にピークが埋もれてしまう場面が出てきます。そういった場合には、成分を濃縮してより高い信号を得られるようにすることで、正確かつ精度よく定量ができます。

また微量元素を測るときは、夾雑(きょうざつ)成分によって定量を妨害することがあります。その影響により実際とは異なる結果が出る場合があるのです。それを分析者が鵜呑みにすると、間違った結果を世の中に出してしまうことになり、それはあってはなりません。影響を取り除くためには夾雑成分を取り除くことが必要になり、それが分離という操作になります。我々は、分離するための材料を独自に化学合成し、それが予想通りの機能や分析の目的に合う効果であるかを確かめながら、研究を進めております。

なぜ微量のものを数値化するかというご質問ですが、数値が微量であったという曖昧な公表では、いくら人の健康に影響がないと言っても疑いを持つ方がおられます。正確な数値を示し、有害な元素が微量に含まれている場合も「国の環境基準の何分の1」というような、具体的な尺度を持って示すことが、地域の人の安全・安心な生活により貢献できると考えております。

また、その微量な濃度を継続的に調べておくことで、その値が10年あるいはもっと長い間、同じようなレベルで推移していれば、それがその環境のあるべき姿ということになります。ところが、それが徐々に変動して増えているという結果になっているとするならば、数値が変動する原因を調査して未然に対策を取ることが、過去に起きた大きな環境問題を防ぐことになります。そういったことから、微量元素の濃度レベルを明らかにしておくことは意義があると思っております。

竹内

どのようなきっかけで
現在のような研究を始められたのでしょうか。

加賀谷

子どもの頃から魚釣りが好きで、近くの池でフナ釣りをしておりました。その池の裏に有名な金属工場があり、家族から「あそこの魚は・・・」という話を聞かされました。本当かなと思いながらも、それが現在のような分野に興味を持つきっかけとなりました。学生の頃から今のような勉強はしていましたが、富山県で就職することになり神通川に出会いました。社会科の勉強で習った川でしたから、今のカドミウムの濃度レベルはどうなのかと考えたことが、現在の仕事を続けるモチベーションになったと思います。

富山大学 学術研究部 工学系 教授 加賀谷 重浩氏

分析研究を続け、どのような未来が訪れるのか

竹内

私どもの会社は北陸電力の100%出資子会社で、2022年に創立30周年を迎えました。親会社である北陸電力の業務のサポート・支援が事業の始まりです。わが国では昭和40年代の高度経済成長期にエネルギーの大量需要に応えて石油を燃料とした発電所の建設ラッシュがあり、さらに40年代後半からは国内で原子力発電所も建設され始めました。その後、低廉さから大型の石炭火力やLNG火力発電所が相次いで建設され、国内の主力電源になっております。北陸電力においても発電所の安定運転のためには、大気汚染や水質汚濁などの公害防止や予防、騒音や振動の低減など、いわゆる環境保全や地域の安全・安心な生活を守る必要があります。

私どもの会社もその一翼を担って地域の皆様が生活をつつがなく過ごしていただくための分析を行って事業を発展させてきました。オンタイムで提供しているデータや、毎月、四半期毎など定期的にデータを提供しつつその変化のウォッチングもしております。先ほど加賀谷教授も安全・安心な生活とおっしゃられましたけれども、分析したデータを示すことで生活環境が保全されているということを地域に伝えているわけです。こういった役割を担っているので、従業員は何のために分析しているのかという社会的な使命を十分に理解し、正確な分析に努めています。

加賀谷教授の研究フィールドは、結果を公開することは社会的に影響力があると考えます。先程おっしゃられたように、富山にはイタイイタイ病の原因となった神通川があります。今も症状に苦しんでいる方や水質を心配する方がおられる中で、分析データを公開することは社会的責任が大きいと思われます。そのような立場にある中で、分析研究を続け、データを公開し続けていくことで、どのような未来が訪れるとお考えでしょうか。

加賀谷

研究者は、公開するデータの値に責任を持つ必要があります。ややもすると数値は一人歩きしますので、それを正しく解釈できない人に数値やデータが渡り、勝手に解釈されると風評被害につながりかねません。また恣意的にデータを見せる術はいくらでもあり、それはバイアスの掛かった見え方になります。我々はただ数値を公開するのではなく、その数値が何を意味しているのか理解した上で、重く受け止めてデータや数値を公開する必要があります。

例えば先程のカドミウムを例にすると、結果が環境基準と比べてどうかまで対比させる必要があります。大学の講義でも神通川の分析結果を学生に見せていますが、カドミウムの数値を見せると、学生は今の科学のレベルでは大丈夫かもしれないけれど、今後さらに科学的な知見が深まったとき、このレベルでも危ない可能性もあると述べます。この慎重さは研究する上でとても重要なことで、いろいろな方面からその数字について考えることが大事です。将来もっと科学が進歩したときに、過去の数値を振り返るときが必ずやってきます。そのときに、今の分析結果の数値は別の意味を持ちます。正しく精度の高いデータや数値をアーカイブしておくことは、とても価値があることです。

今後は分析機器が進歩し、人体への影響の知見も深まり、今までに見落とされていた部分がクローズアップされ、安全レベルのハードルが上がると考えられます。そういった中で分析をする人間は、より低いレベルの濃度を正しく測る技術が必要になるでしょう。それを見越して分析機器メーカーは、装置にいろいろな機能を付け、高感度で使いやすく、誰もが試料を入れると値が出てくるようなものを考えています。それは便利ですが「何か、おかしいな」というときに、完全にブラックボックス化してしまい判断ができなくなる時代が、もう既に訪れ始めており、今後はそれがより顕著になると思っています。

私が講義で伝えているのは、分析機器というのは測定すると何らかの信号が返ってくるもので、その信号の意味を解釈するには分析する人間が正確な目盛りを振り、その目盛りで結果を出していくものだということです。分析者の存在は未来永劫必要であり、未来はより高いレベルの人材が求められると思っております。

竹内

私どもの場合、発電所の大気や水質の環境測定を定期的な頻度で継続的に測定しています。確実に実施することの積み重ねが地域の信頼を勝ち取ることに繋がっています。こういった測定実績が評価され最近は公共団体、自治体が発注する競争入札の参加や民間企業からの受注が増加するなど、長年の実績と信頼が取り引きに繋がるようになったと考えています。

絶対的な責任を持てる、分析人材を育てる

竹内

企業の成長には技術力が最も重要だと考えています。技術力がひいては信頼性になりますので、まずは技術力を身に付ける人材育成が必要です。大学では分析をする人材の育成をどのようにされているのでしょうか。

加賀谷

研究者を長くやってきて思うのは、遠回しに思えて基礎に立ち返ることが大切ということです。分析をやる人間は、結果に対して絶対的な責任を持たなくてはなりません。そのためには結果が正しいことを担保するための検証をどう行うかが重要です。分析では「おかしいな」ということが多々ありますが、このような場合はその原因を突き止め、原因となる部分を取り除き、正しく定量することが必要です。

例えば分析機器の原理や、一連の操作で何が起こっているかを理解しない限り、どこで起きた何が結果にどういう影響を及ぼすかが理解できません。それができないと何が原因かという仮説も立てられませんし、仮説をたくさん立てたとしても、どれが最も可能性が高いかという順位づけも困難です。自分の出した値が正しいという裏付けや保証をすることは、分析者にとってとても重要です。

学生は思った結果が得られないと「失敗」という言葉で片付けることがあります。しかし失敗をどう使うか、失敗から情報を抽出して正しい値に結びつけるヒントを得るかが大事です。失敗は決して悪いことではなく、そこから情報を拾い上げて正確な値につなげていく力も必要なのです。こういう部分は、今の学生は不得意なようです。真面目なのですぐにやり直していますが、失敗から得ることも大切にしてほしいと思っております。

竹内

学生さんへのご指導は、具体的にどのようにされていますか。

加賀谷

1、2年次には基礎的な内容を学び、2年次の途中から実習が始まり、3年次により深いことをやって、4年次に研究室に配属されて卒業研究を進めます。低学年の学生には基礎をしっかりと学んでほしいと思っているのですが、講義で学ぶ内容が何の役に立つのか分からないという声も多く聞かれます。そのため1、2年次の講義では、私の今の研究、今までの人生で経験した具体的な話をして、それが今学んでいる基礎と関連していると話すようにしています。

4年次で研究する段階になると、今までに学んできたものをいかに武器にするかが大事になりますが、研究室に配属される多くの学生は、知識は持っているけれど、それが実際の研究と繋がらないということに苦労します。そこで知識と実際の研究が繋がるように伝えると、過去の授業のノートや教科書に戻り、頭の中の引き出しから情報を探し研究に必要であることに気付いていきます。大学院生になると、ある程度本人に任せ、自分が学んだことと研究を繋げるプロセスの演習をさせ、目の前の問題の原因を究明するための仮説を立て順位付けすることになかなか苦戦しています。でも卒業後に遊びに来て「企業に入って、周りと比べてちょっと優位に立っています」「研究室で鍛えられたのが役に立っています」と話す教え子もいます。

おそらく大学の研究室もそれぞれで、成果を出すことが優先の研究室も中にはあると思います。もちろん私も成果は出して欲しいですが、成果を出すまでの能力を身につけて欲しいと思っています。それには時間がかかり大変ですが、時々考えさせ、逆に私が知らないふりをして質問を投げかけ、答えに窮するという場面になり、それを調べてきたのをまた差し戻しというようなことをやっています。でも、これらのプロセスが社会に出てから役に立っているという話を聞くと、少しホッとしますね。

竹内

人材の育成については、専門的で卓越した能力を身につけた分野の人材を採用し、まずはその能力を活かすことができる最適な部署へ配属しています。得意分野の延長線上で学びながら技術を身につけることが、すんなりと社会に馴染むことだと思いますし、仕事を確実に覚えるのに効果的です。また、分析は信頼性が大事ですので最初から二刀流、三刀流というのではなく、階段を一段ずつ上るように、一つのことを学んだら次のステップへと進みます。

分析の勉強をした学生さんは、疑問を抱き探求する気持ちが強く、会社に入ってからも非常に応用動作が効きます。

人事異動が非常に効果的だと思う一つの例として、入社後分析に一定期間かかわっていた者が、営業を経験すると、一人二役という感じでお客様からの技術的な問いにすぐに対応できます。その後、分析に配置転換すると、お客様に寄り添った創意工夫や改善などを行い、人間的にガラリと成長することがあります。分析業務だけでなく場合によっては複合的に携わるのも必要だと感じております。

また、別の視点では、チェック能力も重要です。弊社の分析結果は、必ず社外に報告します。技術者が分析した結果に、国家資格を持った環境計量士が計量証明書に判子を捺す場面があり、判子を捺す人間は結果に対して絶対的な責任を負うことになり、最初は手が震えるという話も聞きます。技術者にとって仕事のプレッシャーは大きいと思います。分析結果は正確に報告する必要がありますし、信頼性の高さを大切にしていますので、二重、三重のチェックをしています。

日本海環境サービス 代表取締役社長 竹内 正美

加賀谷

私自身は、常に自分を疑っています。学生時代にあったことですが、妙な分析の値が出ることがあり、いろいろ試すけれどもその値がやはり出るということで、当時の指導教員にデータを見せたことがあります。そうしたら少し眺めて「試薬が怪しいんじゃない」と言われ、違うメーカーから同じ試薬を買い分析すると全然違う値になったということがありました。もともとの試薬に不純物が入っていたのです。ほかにも同じ分析試料で何をしてもデータが乱れることがあったときは、「掃除をしたか」と言われ、研究室を綺麗にしたらデータの乱れがおさまったこともありました。このことは今もなお頭に残っていて、学生に伝えています。

産学連携で、現代を取り巻く課題に挑む

竹内

教育面や研究面における産学連携についての取り組みをお聞かせ下さい。弊社への期待感はありますでしょうか。

加賀谷

分析は大学の研究では花形ではないかもしれませんが、カーボンニュートラルやSDGsといった現代社会のテーマになるような研究を支えているのは分析者であると思っています。優秀な分析者を社会に出すためには、2、3年次に世の中で実際に分析にあたる人たちがどういった活躍をしているかを知るのも大切で、それにより分析に対する興味や学習の意欲が高まると考えています。2022年度から3年次にキャリアデザインの講義を作り、地元の企業様をお呼びして、いろいろな業界の仕事についてお話をしていただき、学生にとっては業界を知る機会になっています。ぜひ御社にもお話をしていただきたいと思っております。

また、我々の研究は、自分たちの思いだけで分析方法や材料を開発しておりますが、実際に分析の現場で何が問題になっているのか、どんな方法があると便利かなど、生の声をお聞きしたいです。その声に応じて我々の持つノウハウを活かした開発研究ができれば、Win-Winになると思いますので、機会を作り情報交換もさせていただきたいです。

竹内

分析を基礎から学ばれた学生さんが、実社会を知り実体験をすることは、とても有意義だと思います。私どもが講義に出向いてのお話はできます。会社や現場へお越しいただいて体験することも重要ですので、講義と実体験を組み合わせて考えるのもいいかもしれません。

地球環境の変化や人体の影響などにナーバスな時代が訪れており、お客様からは分析の精度を高めてほしいというニーズや、幅広い分析結果のパターンを求める要求が大きくなってきております。前例のないことは弊社だけでは解決できない場合もあり、これまでは機械メーカーに頼ってきましたが、今後は加賀谷教授からもご指導いただき、対応策を練っていただくことが必要になると思います。長所を互いに持ち寄ることで、環境課題など現代を取り巻くさまざまな課題の答えが導き出せると考えていますし、それが経済発展へも繋がります。

技術が信頼性の高さを築く

加賀谷

本日の対談で竹内社長の話をお聞きし、実際に分析を生業としている企業が、信頼性をとても重視しておられ、そのためには人材が肝であるということを再認識いたしました。もちろんその人材が、いろいろな技術や考え、能力を備えて、初めて信頼が得られるというところを最重要ととらえ、研究室の教育に上手く活かしたいと感じております。

竹内

高度な装置やDXの推進などで、楽で便利な機械を使うという時代の流れがある中で、加賀谷教授は「基礎が大事である」という分析の本質を大切にしておられ、事業者としても肝に銘じたいと思います。また民間企業と交流をすることで、学生をより成長させたいという気持ちを私どももありがたく感じましたので、是非ご要望にお応えしたいと思っております。どうぞよろしくお願い致します。

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