vol.02

CROSS TALK President × Professor 環境保全で、
新時代に応える

日本海環境サービス
代表取締役社長
竹内 正美
TAKEUCHI MASAMI
富山大学 理学部
自然環境科学学科 教授
倉光 英樹
KURAMITSU HIDEKI
02

社会変容に対応しながら事業を推進

竹内

世の中の経済成長が、産業主体から地球温暖化防止や生物多様性を守ることに移行しています。倉光教授はこのような環境配慮型に変化した理由をどのようにお考えでしょうか。また環境配慮型の世の中になったことで、企業や地域はどのように対応・変化していくべきだと思われますか。

倉光

産業活動を最優先にしてきた日本は、四大公害病を始めとする深刻な環境問題を経験しました。1967年に公害対策基本法が施行され、産業活動が人の健康や生活環境に被害を与えてはならないことが初めて明文化されたわけです。1993年に公害対策基本法は、環境基本法へ発展的に継承され、環境保全をより包括的に捉え、人類そのものの福祉に貢献する内容へと深化しました。そこには国際協調による取組みも位置付けられています。

そして今は、SDGs達成を旗印に、世界の企業がESG投資(環境・社会・ガバナンス)を戦略の軸に置くのが当然となりました。今後はカーボンニュートラルへの対応、生物多様性の保全、プラスチック循環利用の促進など、地球環境問題に目を向けた付加価値のある経済・産業活動によって、企業が生き残りをかける時代になっています。欧米諸国では社会変容を前提とした経済活動が推進されており、日本も社会変容にアンテナを張って事業を推進しなければならない時代に入っています。

竹内

私どもの事業は、社会変容の最前線で地球環境への影響を調査分析し、企業経営をサポートしています。このような立場に居りますと、企業が社会問題に敏感なのがよく分かります。最近では、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの開発や運用と動植物の保護、またインフラ整備や設備の増設に伴う騒音・振動などの環境変化に関わる調査や臭気測定の依頼が増えております。

調査分析に携わる者としては、社会変容を把握しながら分析結果をお示ししなくてはなりません。調査分析に関わる者には、社会の動向に対して常にアンテナを高くして敏感な感性を持つことが大切であると指導しております。結果の報告時には、データの正確さはもちろん、社会的な影響も考慮し、しっかりと相手に伝わるような報告書に仕上げつつ理解を促すための説明や工夫も大切です。こういった時代だからこそ信頼を得ることが、我々の会社の生き残りに繋がっていると感じております。

分析の高度化と分析技術の向上を目指す

竹内

倉光教授は新たな分析方法の開発に携わられており、分析技術の高度化は、これまで分からなかった事柄が数値として明らかとなってきますが、その有効性についてお話ください。また、マイクロプラスチックやナノプラスチックの分析ニーズについてもお聞かせください。

倉光

分析技術の高度化は、産業技術の進歩に貢献します。環境をより健全に保つことへの期待が高まるのも当然だと考えています。

例えば、近年、大きな問題として取り上げられているマイクロプラスチックに関しても、その分析方法は非常に煩雑で、時間がかかります。今よりも簡便で迅速に分析する技術が開発されれば、環境汚染の実態がより早く鮮明に分かるでしょう。マイクロプラスチックが実際にどのような毒性やリスクを持っているのか評価する技術も十分に確立されていませんので、今後は多様な分析方法が必要になると思います。

その次は、ナノプラスチックが問題視されるようになると思うのですが、当然その分析方法も確立されていませんし、リスク評価にはさらに高いハードルがあります。今後の分析技術の進歩は、単にマイクロプラスチックの問題だけを考えても多くの課題があるわけです。ほかにも、さまざまな環境問題や有害物質等もありますから、今後も分析技術の向上が必要不可欠だと考え、研究活動を行なっております。

富山大学 理学部 自然環境科学科 教授 倉光 英樹 氏

竹内

私どもは環境省の受託事業で能登半島沖を含む国内3カ所で継続的にマイクロプラスチックの調査分析をしております。環境省のガイドラインに沿った手法で実施しており、測定自体は機械ですが細かな手作業も多く、時間と労力が必要です。分析者は人体へ影響が問題視される分析であるという社会的使命感を強く持って取り組んでおります。時系列で調査を実施しておりますので、経年変化を考慮した仮説を立てることも大切です。またプラスチック製品の形態や、消費者がどのように使っているのかという、上流から下流までを意識しながら分析を行っております。

トレンドや背景を意識して検証や報告をするのと、結果のみ記すのとでは、データが同じでも質が異なります。日頃からデータの変化に敏感になり、幅広い知識を得ることが必要だと考えていますので、今後は倉光教授と連携させていただきながら、分析方法など相談に乗っていただけると幸いです。

経営戦略の核を知る

竹内

富山大学の理学部と経済学部では「地方創生環境学」の講義を実施しておられると聞いております。大学と企業の連携が年々強く求められる中で、学生がSDGsや環境を主眼においた経済成長について学ぶ意義をどのようにお考えでしょうか。

倉光

2015年に日経ESGのシニアエディターの藤田香氏、元環境事務次官の中井徳太郎氏をお招きして、地方創生環境学の講義をスタートしました。現在は、私のほか3人の先生がコーディネーターを務め、環境保全を基軸に、地方創生に貢献するような産業活動や社会活動に関する講演を多様な視点から行うことを目的としています。半期の講義で、富山県内の産学官金の経営者や部長など、地域のキーマン15名に登壇いただいております。

当初は一貫性のある話になるとは思いませんでしたが、多業種にも関わらず、皆さんが口を揃えたようにESG、SDGsについてお話されます。主軸がしっかりとしているのは非常に面白い部分です。実社会の活動を聞くのは学生にとっても好評で、キャリア形成を考えるきっかけや励みにもなっていますし、将来を描くことで学習意欲の向上にも繋がっています。

講師の依頼は一度も断られたことがありません。産学官金の連携の重要性が社会でも理解されていますし、以前に比べると大学教育が地域に開かれ、また社会もこれを受け入れているようにも思います。世界を視野に、SDGsという潮流を経営戦略の核に置いている会社が富山に多数あるということを知ることは非常に重要で、学生が講義で会社を知り、就職活動から採用につながる事例もあります。環境分析というジャンルは今のラインナップにはないので、日本海環境サービス様にも、今後お引き受けいただきたいと思っております。

竹内

非常に素晴らしい企画で、学生は幸せだと感じます。学生が企業を学ぶ機会にインターンシップ制度がありますが、これは自分が訪れた企業のことしか分かりません。企業側も実務担当者や中間管理職が対応しますから、仕事内容の理解に留まってしまいます。しかし倉光教授らの「地方創生環境学」の講義ですと、企業の代表や部長クラスの話になりますので、世の中のトレンドや企業の使命、理念などを体系的にご講義されるのだと思います。講師のお名前を拝見しましても、地元企業の経営者がたくさんいらっしゃいますから、学生も身近に感じられる部分があると思います。

倉光

ほかにもキャリア教育としては、国家資格である「公害防止管理者」の取得に役立つ公害概論、水質概論、有害物質や汚水処理などの講義をしています。国家資格取得が勉強のモチベーションになるという学生もいるので、大変有意義だと思っています。

私がこの講義の中で一番伝えたいのは、現代の日本では実感できない環境汚染が過去に存在し、それが非常に重篤な被害を与えていたことがあるということです。今もその対策がなされているということの一つが環境モニタリングになります。それが確かに世の中に仕事として存在していることを伝えたいという想いから講義しています。

竹内

私どもの業務に必要な資格として、公害防止管理者や環境計量士、技術士などがあり、多くの有資格者がいます。資格者が多いことは発注する自治体や民間企業にとっては、信頼に繋がるものと思っています。自己啓発だけでなく、社内講師の指導による勉強会を開催し、資格保有者を増やし企業力の強化を図りつつ資格取得者に対して評価をしております。

日本海環境サービス 代表取締役社長 竹内 正美

新規化学物質による環境汚染が地球規模の課題

倉光

プラネタリー・バウンダリー(図1)とは、地球環境容量と訳されているもので、スウェーデン出身のヨハン・ロックストロームという環境学者を中心としたチームが2009年に公表しました。SDGsにも直接的な影響を与えたと言われている地球環境の限界を示す概念です。9つの項目が挙げられており、そのうちの一つに新規化学物質という項目があります。

新規化学物質についてはこれまで定義されていなかったのですが、2022年に初めて化学物質の年間生産量と排出量が世界的な評価監視能力を上回るペースで増加しているということを理由に、新規化学物質の安全な運用領域は、地球環境容量をすでに超えているということが報告されました。この報告書では、プラスチックによる汚染を特に強い懸念事項として取り上げており、プラスチック関連の化学物質にフォーカスを当て、最も高いリスクがあると報告されています。

プラスチックについては代替物へ置き換わっていくことが想定されます。新規化学物質の移動や使用に関し、さらに厳しく管理されることが想定されます。大きな社会変容に、私たちは対応していかなくてはなりません。

竹内

生物多様性や生態系保全の動きに絡んで、新たな調査分析方法が求められています。実際、環境DNA分析の必要性が高まって、国内の河川での測定が数年後には標準化されると言われています。例えば、河川改修工事やインフラ整備の際に、生態系への影響がないよう環境DNA分析の結果を事前に報告すること等が想定されます。環境DNA分析が環境保全のために必要だという理解が、世の中でも深まってきていると感じます。

そのような時代の中で、博士号まで極めた方の評価を求めるケースもあるので、私どもは魚や鳥など生物分野の専門家を社内の人材として抱えたいという思いがあります。

倉光

ぜひ学生に話していただきたい題目です。日本では修士過程で修了するほうが就職しやすいと学生が思い込んでおり、優秀な人材が修士で大学を修了します。竹内社長の口から聞くのと私たち教員が言うのとでは全く違いますので、博士で活躍できる場は大学や国の研究所だけではないことを学生に伝えていただきたいです。今後の大学の使命として、リカレント(学び直し)もあります。博士課程を修了した人材に対する学び直しも考えております。

プラネタリー・バウンダリー(図1)

高まる産学連携の重要性

倉光

今回の対談で変容する社会に対応するためには、産学の連携は非常に有効で必要不可欠だと改めて感じました。お互いの行き来があると、より素晴らしいものになると考えており、内容を協議して実施するインターンシップや講義実習が増えれば、古い考え方の大学像から脱却ができると思っております。

竹内

「地方創生環境学」のような講義を学生に提供するなど、実社会で即戦力となるモチベーションの高い人材を育成しようという倉光教授の取り組みは素晴らしいと思います。

産学の連携の必要性は私どもも強く感じており、社会環境の変化、研究や分析に対する意見交換、人材の交流なども、手法のひとつであると思いますのでご相談させていただければ幸いです。

CONTACTお問い合わせ

当社全般に係わる
ご相談・ご質問などございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

PCB廃棄物処理のお問い合わせマスクフィットテストに関するお問い合わせ

※低濃度PCB処理期限は2027年3月31日まで